Prime企画時から相談に乗っていただいている、特定非営利活動法人日本外断熱協会理事の 改正総一郎様 からPrimeの省エネ性能についてのコメントをいただきました。
マンション「プライム」は私の47年、数千棟に及ぶ建築断熱経験の中でも特筆できる高性能マンションです。なぜなら、「プライム」が企画された2004年当時から現在に至るまで、分譲・賃貸に関わらず日本の民間マンションで国の省エネルギー推奨基準を大きく上回る性能で外断熱を全面採用したマンションは極めて少ないからです。
マンションの断熱は内断熱より外断熱の方が有利なので、世界的には外断熱が一般的ですが、内断熱が一般的なのは日本だけです。日本で内断熱が普及した原因は経済性が優先されたからです。
そんな中、2004年に「プライム」を設計していた設計事務所より国の省エネ基準を上回る性能の外断熱マンションの相談を受けました。
内断熱で高断熱にするには断熱材の厚みで部屋が小さくなりますし、断熱材を施工できない部分が出てきます。しかし外断熱にすると断熱材が部屋の大きさに影響しませんし、断熱材がコンクリートを保護して建物の耐久性も上がると言われています。
もちろん断熱性を上げることで省エネ効果も上がります。また、最近では断熱性を上げるとことで快適性が上がり、健康にも大きく寄与するという研究が多く報告されています。2023年1月に放送されたNHKのクローズアップ現代「実は危ない!ニッポンの“寒すぎる”住まい」でも室内の温度差による循環器系への影響などは特筆できるものだと思います※1
欧米に遅れること二十数年、ようやく日本も2025年に住宅の省エネルギー基準を義務化することになりました。2025年以降の住宅は断熱をしないと処罰の対象になるのです。しかし義務化される基準は等級4までで、等級5~7は推奨値になります。※2
今までは最高が等級4だったので、今までの最高等級が2025年に義務化されるのですが、欧米の基準に近い等級5~7は25年以降も推奨値のままになるようです。
しかし、25年義務化の情報が広がると共に現在では最高等級7全モデル採用の戸建て住宅メーカーも全国で展開されつつあります。
47年の断熱キャリアを持つ私ですが、今まで分譲・賃貸に関わらず内断熱マンションで等級5以上のマンションを見たことがありません。その理由は、内断熱で等級4が今まで最高等級だったことが大きいでしょうが、内断熱で等級5以上の性能にするには断熱材の厚みを厚くせざるを得ず、断熱材厚を増すことにより、居住面積や容積が小さくなってしまうことになります。高性能断熱材を使うことも可能ですが、コストが上がり、現実的ではなかったからだと思います。
今後予想される等級5以上性能義務化を考えた場合、高価な断熱材で内断熱をするか、外断熱で設計するかの二択になるでしょう。
(注意:北海道を除く地域では躯体の芯を基準に固定資産税を評価しますので外断熱には有利ですが、北海道は断熱材を含む壁厚で評価しますので、大阪がこの評価法に変えた場合、プライムも評価床面積が増えることになります)
このような状況で、20年以上も前に欧米並みの断熱等級6という性能にこだわった「プライム」の性能がもたらす効果を健康・快適・省エネ・耐久性の観点から説明します。
- 健康
上述したNHKの番組では、室内間の温度差が10℃を超える循環器系に過度の負担をかけることが分かっています。日本は欧米と違い居住空間全体の温度を均一化する冷暖房でなく、部屋ごとに冷暖房する間欠冷暖房が主流です。これでは冬季のリビングと浴室などで10℃以上の温度差が生じやすくなります。
冬季に浴槽で倒れたとか、滑って転んだとかの話をよく聞きます。それらのほとんどは急激な温度差による血圧変化が引き起こすものだと言われており、年間の死亡、もしくは重篤な後遺症になった人の数は交通事故のそれよりはるかに多いという研究報告もあります。医学的な原因は脳溢血などですが、遠因は室内の温度差と言われています。
- 快適
冬季の窓の温度は室温よりも低いので窓に触れている室内空気は冷やされて床の方に移動します(コールドドラフト現象)。足元が寒いというのはこの現象です。逆に暖かい空気は天井近くに溜まります。足元が寒く頭が熱く感じるのはこの現象が原因です。断熱性能・気密性能が高い住宅は、コールドドラフトが起こりにくいので24時間換気が機能していれば温度の上下差も防げ、快適な空間になります。
また、内断熱マンションはコンクリー壁の室内側に断熱材があるため、暖房や冷房で発生した暖冷気は断熱材に阻まれて、壁に蓄熱蓄冷されにくく、ほとんどが窓から逃げていきます。したがって朝晩や夏冬の室内寒暖差が大きくなります。
外断熱マンションは断熱材が外にあるので、室内側の壁にはコンクリートに直接ペイントかクロス仕上げが多くなります。コンクリート壁に断熱材などの熱の障害が少ないので、コンクリート温度が室内温度に同調しやすくなり、外気の温熱変化に影響されにくくなります。
つまり、内断熱のコンクリートは外気温度に同調しやすくなり、外断熱のコンクリートは室内温度に同調しやすくなり、外断熱は朝晩や夏冬の大きな温度差が発生しにくくなります。
特に内断熱の場合は夏の夜間に顕著に体感されます。夏の昼にコンクリートに蓄熱された熱気は涼しくなった夜間に徐々に熱が逃げていきます。バルコニーや廊下など床と壁が接触しているところは熱橋と言われ、断熱材とコンクリートの切れ目から昼に蓄熱された熱気が夜に放出されるので、暑くて寝苦しい夜になります。
- 省エネ
部屋間の温度差無くすには各部屋に冷暖房設備が必要になりますが、断熱性能が高い「プライム」では部屋の扉を開けておけば各部屋に冷暖房設備を設置する必要がありません。家族構成や住まい方などで個人個人変わってきますが、仮に全部屋開放した状態として、ドイツで開発されたシミュレーションソフト(WUFI+)で計算すると、「プライムの」冷房費用は一般的なハイツなどと比べると、夏季の冷房費用は年間で1万円ほど高くなりますが、冬季の暖房費用は5万円以上安くなります。
計算詳細はここでは省きますが、「プライム」の性能は室内から発生する家電製品や照明器具、住む人から発生するエネルギーを逃がしにくいので、夏は少しエネルギーが増えますが、冬はそれらのエネルギーを暖房用エネルギーとして活用しているのです。※3※4
- 耐久性
コンクリートに断熱をする場合、部屋側に断熱するのを内断熱と呼ばれていますが、日本のマンションの約99%は内断熱です。内断熱ではコンクリートが外気温度や直射日光をダイレクトに受けるので、コンクリートの温度が夏季と冬季で大きく変わります。
夏に直射日光を受けたコンクリートを触ったことがある人ならお判りでしょう。コンクリートはこの温度差により春夏秋冬、朝昼夕夜と膨張収縮を繰り返しています。ましてや内断熱の場合、コンクリートに伝わった熱は内断熱材によってコンクリートへの熱負担が多くなります。
イメージで言うと、裸で年中外に立っている状態です。外部ペイントなどで被膜を行っていますが、人で言えば薄い服を着て年中殿に立っている状態です。
これら熱と風雨によるコンクリートの劣化を防ぐために定期的な改修工事が必要になります。
通常分譲マンションでは12~15年に一度大規模改修工事が行われています。
外断熱マンションの場合、コンクリートは厚い断熱材という服を着ているので夏の日射や冬の冷気から守られているので、劣化が少ないと言われています。「プライム」も18年経っていますが、汚れがほとんど見られていません。
まとめ
最近では日本各地の公営住宅で外断熱改修が進められています。
それら古い公営住宅には上述した問題があり、住民保護と建物の劣化対策として進められているのです。
当時の「プライム」のオーナーが健康・快適・省エネ・耐久性の観点から一般的でない外断熱を考えていたことは大きな驚きでした。
参照
※1 2023年1月17日放送 クローズアップ現代「実は危ない!ニッポンの“寒すぎる”住まい」
※2国土交通省HP 「2025年4月(予定)からすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義
務付けられます」
※3Prime平野 603号室エネルギー試算報告書(A)2023/10/24(T-cube一級建築士事務所)
※4Prime平野 同上(B)2023/10/26
文責 改正総一郎
特定非営利活動法人日本外断熱協会理事
資格
(国土交通省) 二級建築施工管理士
(厚生労働省) 一級熱絶縁施工技能士
(特定非営利活動法人日本外断熱協会) 外断熱建築アドバイザー
(一般社団法人パッシブハウスジャパン) 省エネ診断士
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